跳梁の四頁目


「爺!!」
 見下すと孫だった。六歳が滑り易い泥にも挫けないで、登って来ていた。泰造はステッキで慎重に歩くのみだ。孫を苦慮した余り、急ぎ過ぎて却って転げてしまう。注意しなくてはならない。
 やっと二人が並び合うと少年は旅行鞄を抱えて現れた。
「帰るよ」
言うや少年は二人を追い抜いて直ちに下り続けて去った。泰造には引き留める間もなかった。ともかく生きていて良かったと思う。孫が言う。
「ズボンが破れてる」
 強かに引き裂く格好で、息巻いて悶着していたが、肩を落とした。
「食うか?」
 泰造は言ってチーズかまぼこを取り出した。頷いて受け取ると孫は必死だった。
「たぶん鋭い枝で破れたんだろう」
 他意のない嘘だ。泰造は真相を表したくなくて誤魔化した。少年を傷付けた自分はいないとされた心境を吝かにするべきではなかった。
「おーい」
 家の庭の端で娘が叫んでいる、頭上へ掲げた手をゆらゆらと振り動かしながら。
「ママ!!」
 孫も叫び、そして大声で遠く尋ねる。
「何?」
 泰造は用事はないと思った。


終わり