新年を目出度く迎え深呼吸

柏手と打ちも打ちたる初詣

老生や渡せし子へは御年玉

初場所の大横綱が強いかな

文なくに捲らざりきよ初暦

初泣きて額の皺も緩みけり

進むなる双六がやや小休止

初釜の茶を煎じねば沸騰す

狂言も歌舞伎も貴な初笑い

早春に散策せしか花のそば

趣きや芽立つ枝葉へ竹釣瓶

草の根に団子虫なり寒き春

黙しては鴬さえも翔らるゝ

明々と山野を据える春の星

夜桜が魅せん心の忍ばしさ

十字路を北北東へ亀鳴けり

菜の花と紋白蝶や空は晴れ

春行かば巌も砕く別れとぞ

飛ぶ鳥を瞳が留む立夏かな

雨水の溜りこそすれ五月闇

葉桜へ遊びたらんか太鼓橋

純然や擦れ違うとも糸蜻蛉

川広く鮎は跡なく流れけり

早起きの朝顔苗と出会しき

頭には古びて慣れる夏帽子

砂風呂ぞ茹る猛暑の骨休め

実るこそ若々しいも青林檎

来る秋よ魂入れて世の限り

山陰に険しき旅も月夜かな

強ちと鹿や淵背へ下り降る

大粒も偶さかなりき栗拾い

秋雨の玉響に地を叩きけり

吉日か瞬くなゆめ花野まで

海峡を被う隈なし秋の暮れ

蚯蚓鳴き右へ左と這い続く

悲嘆して人生とやよ草雲雀

苔の蒸す石灯籠に冬待つわ

柊を訪ねば侘びる敷居とな

徹宵も将と炬燵へ微睡まむ

駅弁は食えど寂しう冬銀河

朔風に軽く頬笑む赤児あり

出る船や日本海へも帆立貝

隼ぞ果てなき夢を頼もしき

華やかに開かれるとは冬桜

手袋を着けて夜半が峠かな

年明けに金平糖の旨くあり

切れ雲や徒と匂うは桃の花

駒鳥が森を安げに移りけり

羽二つ鈴虫立てて微風かな

街並みも月長石と雪積もる


結城永人の俳句集:全五十句