自分であろうとすることは
いなくなってしまう他人を
刻み付けられるという心で
たぶんありたかったのかも
主情的でなくてはならない

   *

他人が訴える魂を持ちつつ
餅を搗いた兎の月の夜には
庭先で一層と草花も喜べた
想像しても染み込みはせず
どうも感受性は膨らむのか

   *

柔らかい兎の巣穴の片隅に
キュービック・ジルコニア
闇に紛れて薄々と光を放ち
考えれば考えるほど現実の
マグ・カップだろうなんだ

   *

現実の朝で目覚める気持ち
誰が聞こうとするのだろう
局面の不確かな祈りの声を
または願いの姿が何なのか
灯火が消え尽きたとすれば

   *

本当は命の灯火を絶やして
しまいたくなかったという
けれど一人が皆ではなくて
皆も全員ではなかったのに
かく思わしく生きるだけで

   *

もしや宇宙が超大なように
まるで無重力でないならば
遊星は動きを止めるはずだ
引っ張られざるを得なくて
ついに創られもしなくなり

   *

今は太陽を公転する遊星の
一個として地球へ棲み着く
経験できる此処でした行為
メディテーションが永らく
精神も安らげて窓を開いた

   *

曇天の予期しない地球だと
いうにも拘わらず知り得た
螳螂がカサコソと音を発て
認めたくないわけではなく
やはり新しさを驚かされる

   *

カサコソで連想してたのは
泥棒が唐草模様の丸い袋を
背負いながら少しずつ来る
そして憤怒の表情を変えて
本当は俳優と出す舌が厚い

   *

なぜ泥棒と決め付けたのか
相手が嘘吐きでないかぎり
悪かったのは誤りなかった
たとえ非現実的だとしても
パニックに陥ってしまって

   *

せめて非現実的だったんだ
ゴミこそ持ち去らせながら
呼び留めたつもりというか
内実は可哀想に承りたくて
表した遁辞で空漠を堪えた

   *

空漠とした地域では大工が
鋸や鉋で木材を誂えていた
材木を設えながら釘や鎚で
組み立てる家を通りかかり
随分と汗が滴ると悟るもの

   *

家で食欲は須く出て来ない
天物と豆腐と味噌汁と御飯
取るのを恐れているのでも
脅えられた死でもなかった
不味いとか廃棄しろなんて

   *

立派な御飯が雪山に見える
丹念に紡いで撚った絹糸の
軋んで滑車は水桶を井戸へ
鵯を追い立てたオカリナも
子供も近所の広場で屈んだ

   *

水桶に疣蛙が張り付く三秒
淡いゼラニウムの鉢植えを
軒下へ置いて楽観的だった
呑気な野良猫も寝転びつつ
嫌悪する対象は要らないと

   *

防波堤で待つ風雨であれば
易々と御機嫌でいて欲しい
ショックもダメージもなく
すっかり笑い合えるだろう
凌いだ夢想の平然な貴方が

   *

頬を抓ってみて分かったが
華やかなのは気に入るので
いっそクラップしてしまえ
余りにも壮重であり過ぎた
密林の奥のタランチュラへ

   *

乾燥した夜を埋める頌歌へ
マングローブは眉を顰めて
渋るパッションフルーツも
貴方が希求した幻影という
剃刀で反故も蓄えるように

   *

ドラゴンフィッシュの沈潜
まるで進展する煙に巻かれ
振動もしない寸刻が耽美だ
サテンに包まれた南京錠の
繊細な力は推し量り兼ねる

   *

不思議を繙いて謎めく真相
よもや耳目が狂乱しそうで
危険へ果敢に挑める貴方も
きっと望みたい社会なんだ
羚羊は山坂を素早く登った

   *

どんな必定が覚えられるか
封印された聖所の正面扉で
神威に甚く守護されながら
弱々しさは行き擦りもせず
恰も打ち当たる天使の如く

   *

砂礫を漱いだ浅瀬へ素足を
浸して素顔も反射を被って
素肌に太陽は温かい運勢に
固めた決意の素手も翳した
実例として普遍的にいうと

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やおら静黙を保有したまま
秘匿の素敵な性質を指示し
さも明かしてしまうよりか
稠密化された自然の世界で
プリズムが魔除けに役立つ


結城永人の長篇詩:全一篇