僕は角笛を聞いて

結城永人


運河へ進入する汽船を眼下に収めながら
覗いてみた双眼鏡は新しい
甲板で整列する水夫たちが見える
あるいは谷間の商人たちも
先刻よりか遥かに鮮やかな風趣だった
汽船は鉄材を積んで貿易港へ向かう

豆腐屋を曲がると公衆便所や如何わしい看板があった
往き交わす学生も会社員も鞄を携えて忙しく
木々が生い茂る広場の片隅へ出て来ると
軽鴨の親子が池を閑かに泳いでいたのだった
烈しく乱反射する陽射しは音も発てずに弾けて揺れた
子供が飛び出すや直ちに煉瓦道を走り抜ける

僕は角笛を聞いて
港町の川縁にある展望台へ昇ろうとした
老いた観光客が煎餅や緑茶で寛いだロビーを
上へ上へと思い出も深い最上階に
行きたくなったのだ

エレベーターが停まる

いわゆる
天国に近しい島で
吹かれたはずの角笛なのだ
肉眼でも判別された
汽笛ならば煙も上げて汽船が鳴らし
少しずつ蔽い尽くす
猫が霞んだ