ポップ温泉

結城永人


立ち昇る硫黄の匂いが鼻を打つ
能書きはせずに屁もこかないで
羊歯の蔓延した湿地帯は泡々と
蠢きながら煙も噴き出している

旅館は藁葺きの屋根の佇まいで
心と体を存分に休ませられるか
出迎えもない風情が嬉しかった
羽根を伸ばした鴇が翔び上がり
質素な家々の建ち並んだ九月の
変わり行く山岳の密生した緑へ
空中を広やかに滑り降りる初秋

畳の居間を転びはぐって開けた
窓の向こうには露天風呂がある
かつて地元の動物たちが挙って
傷を治そうと暇を取ろうとした
本能的な領分だったともいうが

なぜか疼く胸へ夜風が揺らした
木の実が流れて来ては回りつつ
立ち籠める湯気へ朧げに重なる

檜造りの建物に背を向けて
脱衣所を出た丸裸の清涼も
岩壁へ凭れて矢庭に寛いだ
思い付く死生観も浸かって
かくも幸いという気持ちの
中身こそ堪える入浴だった

納屋の一角で山羊が紙片を食う
暗い雑木林は微塵も倒壊しない