おとぎベアー

結城永人


月影の大地に
五本の爪を掻けて
力強く断崖を登り切る

胸に残された
蜂蜜の甘美な匂い

神秘の森の奥深く
分け入り行きながら
金貨の壺を抱えてたと

蒲公英が云う

見舞われる目尻へ
追い縋り来る竜巻を
全力で躱したと

額に残された
葡萄の甘美な触り

神秘の林の先細く
掻き分け入りながら
水晶の箱を抱えてたと

傀儡師は云う

見守られる目蓋へ
付き纏い来る地震を
全力で透いたと

腹に残された
石膏の甘美な旨み

神秘の木の幅広く
行き掻き分けながら
恋人の棺を抱えてた

大熊座が云う

見込まれる目頭へ
絡め取り来る大雨を
全力で堪える

星影の荒野に
肢体を立て直して
逸速く絶壁を走り抜く

額に印された
葉叢の豪奢な触り

秘密の館の間軽く
突き込み行きながら
竪琴の柄を掴んでたと

西洋梨が云う

聞き及べる耳朶へ
差し迫り来る雷電を
一気で避けたと

腹に印された
煉瓦の豪奢な旨み

秘密の扉の面暗く
当て突き込みながら
鐘楼の台を掴んでたと

道化師は云う

聞き込める耳角へ
擦り寄り来る雪崩を
一気で退けたと

胸に印された
牡丹の豪奢な匂い

秘密の室の軸長く
行き当て突きながら
恋人の品を掴んでた

大熊座が云う

聞き捲れる耳元へ
吹き消し来る烈風を
一気で過らす

漆黒の岩場に
幾筋の毛を曝して
勘鋭く天涯を起き出す

腹に穿たれた
土塊の柔和な旨み

密約の畔の程遠く
跳び出し行きながら
帆船の櫂を捉えてたと

真珠貝が云う

吟味される口側へ
押し切り来る洪水を
敢然で脱したと

胸に穿たれた
桔梗の柔和な匂い

密約の沖の縁薄く
漕ぎ跳び出しながら
饅頭の袋を捉えてたと

奇術師は云う

吟唱される口端へ
引き止め来る噴火を
敢然で外したと

額に穿たれた
蜜柑の柔和な触り

密約の島の気高く
行き漕ぎ跳びながら
恋人の像を捉えてた

大熊座が云う

吟遊される口唇へ
詰め被せ来る波浪を
敢然で逸する