穏やかな暮らし

結城永人


アパートに住んでいた
二階の部屋からゴミ袋を持って
階段を降りて行くと
野良猫が顔を出すような
挨拶に貫かれて

表札は一つだった
当たり前ならば笑おう
烏に見詰められながら誰に似ているかなんて
感じたりもするにせよ
可愛いとしかいえなくて
朝日に染まる道を進んでみたくなる
自転車を漕いで

昔も今も変わらない
心だけは歴史にも動揺しないらしく
日々を泳ぎながら
魚でも天使でもないのに
苦しまずに済んでいるのだった

見るべき人からすると
頬に黒子があるのも本当で
右の方の鼻の隣に小さく
生えてないものの毛を企んで引っ張ってみると
部屋の電灯が付いてしまい
眩しさに慣れるほどに
気持ちが楽しかった

皆は待ってくれたりも
しなくなっていたせいか
礼儀に打たれたんだ
大きく捉えられる有り難みは嬉しいばかりか
ラ・フランスへの口付けみたい
甘酸っぱい恥じらいの思い出でさえもある
真っ赤な薔薇への目配せみたく
健康にも恵まれてや

どちらでも良かった
冗談か本気かへ分け入る場合
解き明かして欲しければ
尋ねて来てくれないものか
頑ななまでに知りたいかぎりは
払い除けるよりも